或る最後の一葉

 その病院のベッドの上で、少女は三ヶ月以上の月日を送っていた。
 良くも悪くもならない。ただ少女は自分はもうすぐ死ぬのだと思っていた。
 「お母さん」
 彼女は付添いの母親を呼ぶと、窓際の花瓶にさしてある花を指さしてつぶやいた。
 「私はあの花が枯れた時に死ぬのね」
 母親はそれを聞くと涙を浮かべて、
 「ああ、お前、そんなことを言うものではありません」
 と、たしなめるのだが、少女はかたくなにそう信じているのであった。
 ある日、思いあまった母親は、院長に相談に行った。
 「先生、本当に娘は治るのでしょうか」
 精神病の大家として知られている院長は、むずかしげに顔をしかめて答えた。
 「治ります。治りますが、まだしばらくは時間がかかるでしょう。花瓶の花が造花だとわかるまでには」