奇妙な事件であった。何ひとつとして手がかりがないだけならともかく、犯人がどこからはいったかもわからない、いわゆる密室殺人だったのである。 被害者の女性は、窓に足を向けてあおむけに倒れていた。額には丸い跡の打撲傷があり、検視官によると、これが致命傷だったらしい。 この不思議な傷を与えた凶器らしき物を室内に見つけることはできなかった。ドアには内側から鍵がかけてあり、窓は全開になっていたが、この部屋は七階。窓の外から中にはいることは不可能なのだ。いったい犯人は、そして凶器は、どこに消え去ったのであろう。 警部は考え深げに言った。 「窓を開けて外を見ていた所を、犯人に殺られたのではないかな」 「しかし、どんな方法で」 一人の刑事の問いに、警部は首を振ると苦笑いしながら答えた。 「それがわかれば苦労はないよ」 「あのー、もしかしたら私が犯人をお教えできるかもしれません」 最近配属されたばかりの若手刑事のその言葉に室内に緊張が走った。 「なんだって。それはどういうことだ。犯人は、凶器は、どうなったのかわかるのかね」 「はい、窓の外から飛込んできて、被害者を傷つけ、その反動でまた窓の外に飛びでたのです」 若手刑事は自信たっぷりに答えた。 「いやー、実は昨日は非番でして。ちょうど被害者の死亡推定時刻にナイターをみていたのです」 そう言いながら窓に近寄ると、眼下に広がる野球場を指さして、 「たぶん被害者は外のどよめきが気になったのでしょう。窓を開けて、外を覗いた。そこへ、場外ホームランのボールが……」 |